しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

序章 あまりに皮肉な「最も幸福な環境」 ●かわいい三匹の子ブタの切ない話

序章 あまりに皮肉な「最も幸福な環境」 ●かわいい三匹の子ブタの切ない話 日本にはまだ、緑が残っています。 人情も薄くはなりましたが、それでも、真心のこもったもてなしを受けて、ホッとすることもあります。 何か言ったからといって突然、警察が来て逮捕されることもなく、自由で平和な日本の生活のように思えます。 ところが、手足を伸ばそうとすると、何かに引っかかります。思い切って伸ばせないのです。現代のわたしたちを取り囲んでいる、この何とも言えない拘束感。その原因はどこにあるのか、まず、幸福で哀れなブタの話から始めたいと思います。 ブタは太りやすく、食欲も旺盛。家畜としてまことに優れています。昔から大変、重宝され、 特に中国料理には豚肉がよく使われます。最近、あまり見かけなくなりましたが、少し前までは、ブタは民家の庭先にいて、ブーブー言いながら、人間とともに生活をしていました。 もっとも、四方を海に囲まれた日本では魚などの海の幸が豊かだったこともあって、プタを食べる習慣は最近のことですが、もともと狩猟民族であるヨーロッパではブタの飼育が盛んで、方法も改良が重ねられて来ました。 かつて、庭先で放し飼いにされていたブタは、やがて、簡単な柵のなかに入れられ、そこで毎日を過ごすようになります。きれい好きなブタは、ときどき水を使って豚舎を洗ってやると喜び、相変わらずブーブーとなきながら、身を寄せ合ってエサにありつくのです。 次第に、民家で飼育されていたプタは、少しずつ専門の養豚場に移り、ブタの数も、養豚場の規模が大きくなるにつれて、増えてきました。かつて町の靴屋さんが、自分の手で一つ一つ靴を作っていた時代から、より高い生産効率を求めて大量生産する「靴の工場」へ、家の近くの商店街が次第に姿を消して、郊外に大規模な量販店が出現するのと同じことです。 ブタの世界も例外ではありません。 民家から養豚場に生活の場を移されたブタは、最初の頃は、柵の中でみんな一緒に育っていきました。そのうちに、養豚場は、隣との競争もあり、自分が経営する養豚場で少しでも多くのブタを飼育しようとします。その結果、少しでも、少ない飼料で太ったブタを作ろうと一所懸命になる。 かくして、さまざまな改良が行われるようになり、新聞で紹介されたものでは、「ドーピング・ブタ」という例もあります。 この「ドーピング・ブタ」というのは、飼育しているブタが病気にならないように飼料に抗生物質を混ぜたり、少しでも多く食べてもらうために、食欲増進剤を混ぜたり、時には肉の質を変えるためにホルモン剤を与えることを言っているようです。 薬を与えてまでと思う人もいるでしょうが、養豚場にしてみれば、お互いの競争もあるし、飼育の効率を上げなければ倒産の危険性もあるのですから、どうしても効率の良い方法に変えていかなければならないのです。 かくして、ブタの飼育法はさらに改良されて、ついに、「究極の飼育法」に到達します。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231006