七 ニヒリズム 「幻はマボロシと訓(よ)むなり。天竺にては術師の事を幻出師(げんしゅつし)と云ふ。世界は皆からくり人形なり。幻の字を用ひるなり。』(聞書第一 一二三頁) 常朝は、たびたびこの世をからくりであると言い、人間をからくり人形であると言っている。彼の心底には深い透徹した、しかし男らしいニヒリズムがあった。彼は現世の直下に、現世の一瞬一瞬に生の意味を求めながらも、現世自体を夢の世と感じた。 ニヒリズムについては、また別の項で後述する。 『葉隠入門』三島由紀夫 (新潮文庫) 20240802 P45