新型コロナウイルス禍を例にして説明しましょう これについても、新型コロナウイルス禍を例にして説明しましょう。 当初、2019年11月末から12月にかけて中国でコロナウイルスが流行し始めると、多くの人たちは「これは大変な新しい肺炎ではないか」「もしかすると人が故意にウイルスの中に変なDNAを入れ込んで、特別な強力なものが出てきたのではないか」 「だから武漢ではあんなに流行って、人々が病院へ押しかけて、しかも待合室に患者があふれるような状態になるのではないか」と考えました。 これは、それまでの過去のデータから導き出された当時としての推論です。 ところが1月、2月に入ると、おそらくかなりの人数の中国人感染者が日本に入ってきていたにもかかわらず、日本ではほとんど感染が広まらない。 2月の末でもまだ1日あたりの患者数は全国で50人を上まわらないような状態が続いていました。 これまでのインフルエンザウイルスですと、急激に流行し始めるのがだいたい正月あたりなのですが、それから2週間も経てば1日に40万人もの患者さんが出るようになるわけです。 ィンフルエンザのように1日に40万とか60万とかいう人が新たに罹患することを考えたときに、よくそのころにテレビ で言っていた「爆発的流行」というのは新型コロナウイルスにはあてはまりません。 少なくとも流行の速度ということではたいしたことがない。2月の末ぐらいまではせいぜい1日50人とか100人程度の桁数でしたから、新型コロナウイルスの性質を根本から考え直さなければいけません。 感染者がお亡くなりになる比率でみると、これまでのインフルエンザではだいたい0.1%でしたが、それが新型コロナウイルスでは1~2%ぐらいだということがわかってきます。 そうすると今度の武漢風邪というのは、流行は非常に遅い。伝播は鈍いのだけれど、感染したときには死亡する危険性が高いという状態になってきますから、その点を考慮すればどうしたってコメントは変わってくることになります。 さらに3月、4月となって、ある程度の流行はしましたが、アメリカやヨーロッパでの感染拡大のスピードと比べたときに日本は相変わらず遅いままで、しかも少しずつ感染者が少なくなってくるというデータが出てきます。 そうすると今度は「なぜ日本では流行しないのだろうか」という問題が出てき また重症化して亡くなる人の年齢が非常に偏っていて、80代、90代では結構亡くる人が多いものの、年齢が下がっていくにつれて、死亡率は激減します。10代、20代となるとほとんどいない。もちろんこういった統計的には必ず1人や2人はいるのですが、決して多くはないということがわかってきます。 そうすると今度は別のことを考えなければなりません。たとえば、90歳の人がお亡くなりになったときに「本当に新型コロナウイルスによるものなのか」ということを考えなければいけないでしょう。 なぜそうかというと、人間というのは必ず死ぬわけですが、その死因は90歳ぐらいの人の場合、今までもやはり「肺炎」です。 今度の新型コロナウイルスでは「コロナ病」でお亡くなりになるというわけではなく、ウイルスに 感染することで肺炎になったときにお亡くなりになる。そしてこれまでも肺炎で亡くなる方々は、こちらは何がきっかけかというと、その多くはインフルエンザであったり普通の風邪が進行して肺炎になるわけです。 ウイルス自体は風邪やインフルエンザから新型コロナに替わったとはいえ、結局、肺炎になってお亡くなりになるということは同じです。 このことは何を意味するのか……。 日本でインフルエンザや通常の風邪に罹る人は、1年に2000万人もいます。 一方、日本全体で病気や事故を含めたすべての死亡者は、2019年度の厚労省の統計によると138 万1098人で、この数字は例年大きくは変わりません。 そして、そのうち12~13万人が肺炎でお亡くなりになります。 厚労省の統計では主にウイルスや細菌による肺炎と誤照性肺炎に死因が分けられていて、2019年度の統計によるとそれぞれの死亡者は9万5498人、4万354人となっています。 この数字も毎年、大きくは違いません。 今度の新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなった方は2020年11月2日の時点で1773人でした。死因確認中の人が117人ということで、仮にこれがすべて新型コロナ肺炎だとすると2000人弱がこれによって亡くなったことになります。 ウイルスや細菌による肺炎での死亡者を毎年10万人としたときに、今回の新型コロナウイルスでの死亡者はそのうちの約2%ということになります。 しかもその中には、もし新型コロナ 肺炎に罹らなくても普通の風邪やインフルエンザによる肺炎でお亡くなりになっていたという人もいるでしょう。 こうやって日本全体でみたときには、「新型コロナウイルスでお亡くなりになは、実はほとんどいない」という意外な結論に達することになるのです。 私はここで、新型コロナウイルスによってどのくらい亡くなるかということを議論しようとしているのではありません。 データが次々と出てくるときに、最初は「新型コロナウイルスというのは遺伝子が特殊で怖いな」と思い、そのうちに「たいして流行が起こらないな」と思う。その次には「ヨーロッパやアメリカは多いな」と思うようになり、だんだん「年を取っている人だけが肺炎になってお亡くなりになるな、おかしいな」となる。 ここのところをよくわかっていなければいけません。データが変化するにしたがって、そこから導き出される結論も変わっていかなければならないのです。 それが科学の特徴です。実験の結果によって考えを直す。「人間の考えは未熟だから、自然による結果が出たらそれによって考えも変える」という、そのことをよくわかっている人が“理系思考”の持ち主です。 『フェイクニュースを見破る 武器としての理系思考』武田邦彦 (ビジネス社刊) R060521 P042