「家族農業」こそ効率的 国連の採択した「家族農業の10年」は、まさに我が国の農業の再生への道を指し示しています。小規模農業なら、我が国の平地の少ない国土にも適していますし、各地の気候や地形に適応した作物を育てることができます。 そのお手本として「日本一小さい専業農家」を自称する西田栄喜(えいき)さんの事例を見てみましょう。「日本一小さい」という規模がどれくらいかというと、耕地面積が0.3ヘクタールとサッカーコート半分くらいの大きさです。平均的な野菜農家の耕地面積は3ヘクタール以上ですから、西田さんの畑はその10分の1という大きさです。そこに小さなビニールハウスが4棟立っています。 この小さな規模で、奥さんと二人で50種以上の野菜を無農薬栽培し、野菜セットや漬物などの店舗直売やネット販売により、年間売土1200万円、利益600万円を計上しています。「夫婦と子供二人の田舎暮らしなら、今ぐらいの所得があれば、心身ともに豊かになれると実感しています」とのことです。また初期投資は農機具などの購入費143万円だけで、今日に至るまで借金をしたことも、補助金を貰ったこともないというから驚きです。 平均的な農家の10分の1の規模で、どのようにして600万円もの所得を達成しているのでしょうか? 通常の農家では、100円の農産物を売ると、都市部のスーパーなどに送る流通経費を54円もとられて、手取りは46円。ここから農業経費32円を弟し引くと、利益は14円しか残 りません 。これを西田さんのように 匝売所やインターネット直販にする と 、大砿生産・大錆販売のための流 通経骰がまるまる浮いて 、農業経費32円を差し引くと、利益は14円しか残りません。 これを西田さんのように直売所やインターネット直販にすると、大量販売・大量生産のための流通経費がまるまる浮いて、農業経費32円を差し引いた68円が利益として残るのです。 また一般的な野菜農家では、収穫物の平均3割が廃棄されているといいます。サイズが規格外であったり、曲がったりしていて見た目が悪いと、市場で扱ってもらえないのです。それに対して西田さんは、傷ものや不揃いの野菜でも漬物にしたりジュースにしたりと加工品にして販売することで、廃棄ゼロに挑戦しています。こうした「スモール・メリット」で、通常の農家の何倍もの利益を上げることができるのです(西田栄喜「農で1200万円!』)。 それでも、こういう零細農家がいくら集まっても、国全体の「食の安全保障」に十分な規模にはならないのでは、と多くの人は思うでしょう。 しかし、現在は130万人の農民で自給率38%を達成しているのです。 となると、あと200万人ほど農民が増えれば、自給率100%を達成できる計算になります。 「日本一小さい専業農家」は夫婦二人で年収600万円ですから一人あたり300万円。日本全体では、年収300万円以下の人が3000万人近くもいると言われています。年収300万円を得られて、しかも生活費の安い、自然の豊かな地方で生 活できるのなら、派遣やフリーター、アルバイトをしている人々も、あるいは定年後の第二のキャリアを求める人にしても、家族農業を希望する人はいくらでもいるでしょう。 ところが、現在の日本で新規就農をするためには、各都姐府県ごとに決められた条件をクリアした上で、農業委員会の許可を得る必要があります。許可項日の中には当然ながら農地の下限面積も含まれており、例えば埼玉県ならちょうど西川さんの耕地と同じ0.3ヘクタール(30アール)が、また北海道は2ヘクタール以上(地域によっては農業委員会が未満面積を設定している場合もあり)が必要となります。そのためまずはこのハードルを越えなければなりませんが、新参者にはなかなか貸してもらえないのが実情で、農家人口が増えない大きな要因の一つとなっています。
『Renaisance Vol.13』ダイレクト出版 「家族農業」こそ日本再生の道 伊勢雅臣氏より R050525