しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

●安全神話の崩壊と体感治安の悪化

安全神話の崩壊と体感治安の悪化 もう一つの問題は「安全」に関する問題である。現在、環境を論じる際に、そこには治安や安全という要素が入っていないけれど、安心や安全は非常に重要な環境問題である。 例えば、夜11時以降女性が一人で外出すると襲われる確率の高い地域、家に厳重な鍵をかけておかないと泥棒が入る危険性の高い街など、そういった危険にさらされ、体感治安も悪化している生活がいい環境と言えないことは確かである。 しかし、冷静に考えてみれば、我々は大気や水の汚染から重大な悪影響を受けるよりも、傷害事件に巻き込まれたり家に泥棒が入ったりする危険性の方が高い社会に住んでいる。 もともと日本の社会というのは基本的に安全で、日本の家屋はあまり鍵をかける習慣がなかった。それはなぜかというと、日本人には基本的な公共心や道徳があったからである。 古来の日本には、してはいけないことはしないという非常に強い道徳心が息づいていた。例えば、他人のお金を取ってはいけない、他人の家に勝手に入ってはいけない、他人のものを欲しがってはいけないというような道徳を子供の頃に叱られながら教わったために、日本の子供は食べるものがひもじくても、他人のものを取らないという基本的な道徳が身に付いていたのである。 こうした道徳観や公共心が社会的に共有されているはずだという幻想は、日本人が海外に行った時に思わぬ被害を受ける原因の一つにもなった。 日本人は、子供は純真無垢で悪いことをしないと考えているため、外国に旅をして周りに子供たちが集まってくると、かわいがることが多かった。ところが、その子供たちの中には日本人のお金を狙って来ていたりする者もいた。酷い時にはアイスクリームを洋服に付けて、そちらに気をとられているうちに財布をすられるというような事件すら起こった。

日本は、このように世界でもある種特異な国である。これは、私が日本人で日本びいきだから言っているわけではなく、図表 5-6に示す統計によっても知ることができる。先進国や発展途上国など世界中のすべての国を合わせても10万人当たりの殺人発生率や窃盗率を数字で比較した場合、日本は世界でも最低レベルになっている。 最低レベルというのはこの場合、非常に犯罪が少ないという意味なので、非常に安全な国であることがわかる。日本のように高度に経済が発達した国では、窃盗なども増えて危険になるのが普通であるが、日本は非常に素朴な国と比べても犯罪は少ないのである。 日本が安全な国だという事実、これによって、日本人はかなり大きなメリットを受けてきた。それほど素晴らしい環境だったのである。家には鍵をかけなくても心配ないし、物置きには鍵が付いていない。女性が夜に出歩い てもそれ程危険ではない。

それどころか、江戸時代では女性が外で風呂に入っていても男性は遠慮をしてそれをあまり見ないようにするという風習だったという。 こういった状況は、現代になって大きく変わり、日常的にも防犯に気を遣い、家の鍵を二重、三重にかけた上で、警備会社にオンラインで警備してもらわなければならないような状態に陥っている。 図表5-7のように、日本では10年前より安全な国ではなくなったと考えている人の比率が85%を越えており、世界平均と比べてもそうした不安は非常に高い。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20231001  217