しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

●環境ホルモンという恐怖物質の登場

環境ホルモンという恐怖物質の登場 ダイオキシンとほとんど同じことが「環境ホルモン」「塩ビ」「農薬」などでも起こってきた。 前に、「環境ホルモン」報道の状態をダイオキシン報道と一緒に図表2-7で示したが、これは1996年頃に猛烈に報道され、今ではまったくと言っていいほど報道されなくなった「環境破壊物質」のことである。 生物にホルモン的作用を起こしたり、逆に阻害する化学物質を「内分泌攪乱物質」と呼ぶが、あるマスコミの記者が「環境ホルモン」という造語を考え出し、これが人口に膳灸した。なにしろ男が女のようになり、精子が減り、人口が減少するというのだ。 確かに最近の日本社会では女性に対して相対的に男性が弱くなってきたようにも見える。それに精子が減っているという研究データも発表された。おまけに人口も減少している。環境ホルモンの影響と社会現象がピッタリ一致したのである。 男の子を持つお母さんはビックリした。食物からダイオキシンを摂取すれば奇形児が生まれる、母乳を与えればダイオキシンで将来、子供がガンになる、おまけに環境ホルモンのせいで息子がいても孫が生まれない、もしかすると性同一性障害になって苦しむかもしれない――。こうした不安を抱いても決して不思議ではない。 今ではすっかり報道されなくなった環境ホルモンとは一体な'んだったのだろうか。

例えば、魚ではオスとメスがあまりはっきりしていない種がある。10匹ぐらいが集団で生活していると、だいたいそのうちの1匹がオスである。しかし、このオスは最初からオスとして生まれたわけではなくて、メスがオスになった魚であることもある。群れを守るためには戦う魚が必要だから1匹はオスになるとも言われる。 仮に群れが敵に襲われ、そのオスが戦って死ぬと、残りの9匹の魚のうち、一番体が大きいメスがオスに性転換する。だいたい1週間で体も全部変わって雄になる。このように動物ではオスとメスがはっきりと区別されていないものもおり、さらに下等生物になると雌雄同体もいる。危険が差し迫ってくるとオスとメスに分かれるという生物も珍しくない。 ところが、人間は誕生時に女性と男性という性別がはっきりしていて、生を受けてから男性が女性に変わったり、女性が男性になったりするということはほとんどない。こんなことは生物学では初歩的なことで専門家はわかっているのだが、悪用された。 まず学者の研究が紹介される。最近、日本の男子の精子の数が少なくなったとか、男性が女性化しつつあるなどと報道される。次に、毎日のようにテレビでは動物の性器を撮影して、オスがメス化しているという「証拠」を突きつける。 それも弁当箱の材料から環境ホルモンが出るというのだから、男の子を持つ母親はお弁当をつくるのもビクビクものだった。その頃、私の家内もお弁当をつくる時に「これ、大丈夫?」とよく私に訊いていた。 オスとメスが入れ替わる魚の集団があることは小学校の教科書の副読本に書いてあるぐらいのものであるが、この世の中は情報が非常に歪んで伝わり、小学生でもわかるような内容に大人もすっかり騒されるようになっている。 結局、この環境ホルモンというのはどういうことだったのだろうか。 まず、学問的に精子の減少は否定された。 全体的に減少しているというのではなく、もともと精子の少ない男性の精子数を数えて報告していただけだった。男性によっては精子の少ない人もいる。そうした人だけを調べたらそういう結果にもなる。 さらにこの環境ホルモン事件の全体としてみれば、広い自然界で正常に育っていない動物は多い。そうした動物をピックアップして報道しただけだった。 現代は化学物質が過剰に溢れている時代である。それが人間の健康に影轡を与える可能性は否定できない。慎重に環境を汚染しないように進めていかなければならない。 だからといって科学の姿を借りて「ウソをついても良い」ということにはならないはずだ。本当に問題なら真実を明らかにしていけば良いからだ。

「ウソをついたから改善されたのだ」という論理は、「自分が正義だと思うことなら何をしても良い」という利己的な社会をつくるだろう。

環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230814  103