しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

●毒物で死なずに報道で殺される人たち 報道殺人

●毒物で死なずに報道で殺される人たち ダイオキシン環境ホルモン、チクロ、魚の焦げ、塩ビ……みんな毒性はほとんどないか、きわめて弱いものだらけである。しかし、多くの日本人は未だに猛毒であったり発ガン性があると思っている。ときにはこれらにビクビクして生活をし、不買運動などもした。 ダイオキシンが危ないと言われるので子供を堕ろしたり、心配で母乳をやれなかった母親やこの世に誕生することができなかった子供がいる。 騒げば儲かる、騒ぐのは正義だという行動がどんな結果を招くか。 このような報道は、「故意の誤報」と呼ぶことができるだろう。そして「故意の誤報」によって無惨な死を遂げた例を二つ示したい。誤報で死んだ人はさぞ無念だっただろう。 2002年に北海道で狂牛病騒ぎが起こった。狂牛病は注意しなければならないけれど、1万頭ぐらいの牛が狂牛病になってそれを気づかずに食べていると、1人ぐらいが感染するという非常に人間への感染力の弱い病気である。しかし、その時も「幻の恐怖」がつくり出された。日本で公式的には一人も狂牛病にかかった人もいないし、まして死者も出ていないのに「犠牲者」だけが出た。 2002年5月14日の新聞は狂牛病のはじめての犠牲者を次のように報じている。 「北海道音別町の乳牛が国内4頭目BSE牛海綿状脳症狂牛病)と確認された問題で、この牛の生体検査を担当した釧路保健所(荒田吉彦所長)勤務で獣医師の女性職員(29)が、釧路市の自宅で自殺していたことが、13日分かった。 同保健所などによると12日午前10時ごろ、職員が出勤しないため様子を見に行った同僚が、死亡しているのを見つけた。 「獣医師として至らないところがあって、ごめんなさい」とメモが残されていたという。自殺したこの若き獣医さんは真面目な人で責任感も人一倍強かったのだろう。狂牛病に感染している牛を狂牛病と診断できなかったことに責任を感じたあまり自ら命を絶った。 続いて、9月25日。今度は北海道の冷凍食品加工会社社長が「狂牛病のあおりを受け、経営が苦しい」という追書を残して自殺した。日本人に犠牲者が出るはずのない状況のもとで、2人の命が奪われた。奪ったのは報道だ。 同じことが繰り返される。 2004年の3月。今度は鳥インフルエンザで犠牲者が出た。 「3月8日、午前7時50分ごろ、烏インフルエンザ感染が発覚した京都府丹波町の養鶏場「船井農場」の経営者、浅田肇会長 (67)と妻の知佐子さん(64)が木にロープをかけて首をつっているのを従業員が見つけ、110番した。二人は間もなく死亡が確認された。兵庫県警姫路署は自殺とみて調べている。 調べによると、二人は高さ約8メートルの木にロープをかけ背中合わせで首をつっていたという。浅田会長は同社の緑色の作業着姿で、知佐子さんはグレーのジャケットを着ていた。自宅の台所に「大変ご迷惑をおかけしました」と書かれたメモが見つかった。 同農場をめぐっては2月27日、京都府が立ち入り調査を実施し、烏インフルエンザウイルスの陽性が判明している。浅田会長らはニワトリの大量死を知りながら、すぐに通報しなかったなどとして批判を浴びていた。(「読売新聞」2004年3月8日)」これはもはや自殺ではなく、他殺である。 年老いて実直だった経営者夫妻は自殺する前日、3月7日の記者会見で「船井農場が鳥インフルエンザの発生を隠したのではないか。なぜ、自治体への連絡が遅れたのか?」と責められた。せっぱ詰まった経営者は隣の弁護士に「先生、どうしましょうか?」と聞いていたという。 この経営者にも少しは非があったかもしれない。しかし、該当する「家畜伝染予防法」の最高刑は3年以下の懲役か100万円以下の罰金である。それを殺人犯のように責めて死に追い込む。 これが殺人でなく何だろうか。 無念だっただろう、と私は思う。日本は何と不当で陰湿な社会になってしまったのだろうか。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230817  111