しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

カルシウムが逃げだす人的環境の怖さ

カルシウムが逃げだす人的環境の怖さ 宇宙飛行士の体の変化とDNAの“感性”について知ることができましたので、次に、もう少し日常的なことに目を向けてみたいと思います。 カルシウムがわたしたちの体の骨を作る大切な元素であることはよく知られています。子供の頃は「カルシウムをとりなさい!」と言われて、牛乳や小魚を食べさせられます。また、たくさん子供を産んだ女性は子供にカルシウムをもっていかれるので、晩年に「骨粗鬆症」などのカルシウムの不足が原因する病気にかかることも知られています。もちろん、人間の体は複雑ですから、骨粗鬆症も女性ホルモンの分泌との関係もあり、単にカルシウムの摂取ということで整理できるほど単純ではありませんが、体にとって、カルシウムが大切であることは間違いありません。 東ヨーロッパの旧ユーゴスラビアには地方によってカルシウムを多くとるところと、ほとんどカルシウム分をとらない地方があります。そこで、ユーゴスラビアの人たちの調査でカルシウムの影靱を調べた例があります。一一五頁の上図はマトコヴィッチ博士が女性の大腿骨頸部骨折、つまり「足の付け根の骨が骨折する」頻度を調べた結果をまとめたものです。

それによると、「低カルシウム地方」の七〇歳以上の女性に大腿骨頸部骨折が多いことという結果が得られ、カルシウムを多くとる地方と比較しますと、七〇歳で約三倍、七五歳で五倍も骨折の危険性が高まっています。今さらながらカルシウムが人間にとって大切であることが判ります。 アメリカ・フィラデルフィアでバークヘッド博士が、兵士を実験台にしてある研究を行ってます。まず、兵士を三つの班に分けて、第一のグループは一日中何にもしないで寝ているばかりのグループ。第二のグループは一日中、座ったままの兵士。そして第三のグループは一日三時間以上、立っている兵士としました。そして、ずっと一つのグループに所属している兵士と、時々、グループをかえる、つまり、それまで「寝るグループ」にいた兵士を「立つグループ」に編入させたのです。実験の期間は全部で六三日。生活する上での環境、例えば食事、気温、そしてストレスなどはできるだけそれぞれのグループで差のでないように配慮したのは当然のことです。 実験に参加している兵士の尿を毎日、採取し、尿中の「窒素」と「カルシウム」を測定しました。尿酸や尿素という「尿」のつく名前を持っている化合物は主に窒素でできています。つまり尿中の窒素の量を測定することによって腎臓の機能や実験台になった人の全身状態がおかしくなっていないか見当をつけることができるからです。そして、それを参考にしながら尿中のカルシウムの量を見る計画を組んだのです。

さて、実験結果によりますと、まず、「一日中、寝てばかりいるグループ」も「三時間以上、立っているグループ」も、兵士の尿に含まれる窒素の量には変化がありませんでした。ところが、尿中のカルシウムの量の方はこの二つのグループの兵士で大きく違っていました。一日三時間以上立っているグループに属する兵士の尿のなかにはカルシウムが少なく、一日中、寝てばかりいる兵士の尿中のカルシウムはちょうど二倍の値を示したのです。 つまり、一日中寝ていると尿からかなりのカルシウムが逃げているという結果です。もちろん、立っているグループと寝てばかりいるグループのどちらも食事は同じですから、体に入るカルシウムは同じ。結局、出る方だけ違うのですから、これはゆゆしいことです。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231105   113