しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

時間を長くして暮らす

時間を長くして暮らす 現代の日本で、二つの克服しなければならないことがあります。 一つが環境、もう一つが忙しい時間をゆったりと豊かにするということです。 たしかに、素晴らしい自然環境をつくることはできるかもしれません。しかし、忙しい時間だけはどうしようもないと感じている人も多いと思います。 現代のわたしたちのこころはいつもせわしく、時間をせいています。おまけに、人間が中心ではなく、ものが中心の世界は、少しでも多く人間に働かせて「もの」を作らせようとします。その結果、時間をせかされるので、いつまでも忙しい人生を送ることになります。 この節では、わたしたちが豊かな生活を送る上で、一番、難しいように感じられる「時間の余裕」について考えてみたいと思います。まず、わたしたちが、いつでもどこでも同じように進むと思っている「時間」が、必ずしも、同じではないことから始めます。 歳を重ねるとなぜか時間が速く過ぎると感じる人がほとんどです 。 「四〇代は釣瓶(つるべ)落とし」「五〇代は真っ逆さま」と言われますが、すでに二〇歳代から時間は徐々に速く進むようです。特に、一八歳、二五歳はある意味では一つの区切りで、昔の人がその歳を厄年にしたのも判るような気がします。小学校や中学校の頃、あんなに時間が過ぎるのが遅かったのに、この頃どんどん時間が経ってしまうと嘆いても時間はもとには戻りません。なぜ、歳を重ねると時間が短くなるか、その原因を二つあげてみようと思います。 まず、歳をとると、「しなければならないこと」がむやみに増えてきます。小学校の頃は、朝起きると顔を洗い、歯を磨き、ご飯を食べて、学校に行きます。学校では同じ先生が勉強を教えてくれます。放課後になるとまた同じ道を通り、家に着き夕方まで塾に行ったり遊んだりして一日が終わります。行動は単純で繰り返しが多く、目的ははっきりしています。 一足飛びに、四〇歳。 朝起きると洗面や朝食は一緒ですが、その日にやらなければならないことは膨大に増えています。家族への気配り、夫婦の会話、子供の心配をしながら、急ぎ足で駅に向かいます。何にも考えなくても定期券がポケットに入っていた子供の頃と違い、何から何まで自分で用意をしなければなりませんし、駅に着くとポケットの小銭に気を配りながら新聞を買います。電車に乗ると新聞が読めるだけの空間のあるところを素早く探し、あわただしく新聞を読んでいると目的地に着きます。それから会社……と続きます。 大人になると、一日でやることは無限といってよいほど多くなるのですが、それに加えて、わたしたちは膨大な「心配事」を抱えています。心配事は常にわたしたちのこころをとらえ、それを考えている時間を人生の時間から差し引きます。 わたしたちの人生は「心配事を考えるため」にあるのではなく、「心配事などなく、楽しく過ごす時間だけが人生の時間」なのです。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231122 167