しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

心配事を数えると……

心配事を数えると…… いったい、現代の日本人はどのくらいの「心配事」という環境に囲まれているのでしょうか? 政治経済では、円高バブル崩壊、土地の下落、株の投資、銀行の倒産、家のローン、借金の連帯保証人、自動車保険、利率の低い定期預金、年金の受け取り制度の変更、政治への不安、首相の失言……例えば一二個。 天災・地変では、地震、雷、台風、大雨、大雪、竜巻、洪水、雪崩、津波、強風、火事、火山噴火、地盤沈下、土砂崩れ、病気、不意の強盗……一六個。 人間関係では恋愛、結婚、仕事、夫婦ゲンカ、嫁姑問題、別居、離婚、出産、育児、受験、入学、就職、友人関係、親戚関係、近所づきあい、老後の世話、葬式、お盆、年末年始、帰省、プレゼント、お返し……二二個。 家庭を預かる主婦の立場ともなると、家族の送り迎え、犬の散歩、夕食の献立、日用品のストック、庭の手入れ、ガスの消し忘れ、電気のスイッチ、冷暖房の温度設定、風呂の追い焚き、部屋の戸締り、部屋の掃除、乾かない洗濯物、干した布団の取り込み、ゴミの日と分別、半透明袋……一六個。 環境問題では、公害、光化学スモッグ、汚染物質、排気ガス、大気汚染、水俣病イタイイタイ病四日市喘息、アトピーダウン症候群、病院でもらう薬、O-157ぜんそく薬害エイズプリオン、抗菌、リサイクル、フロンガスオゾン層破壊、地球温暖化二酸化炭素酸性雨、砂漠化、冷夏、エルニーニョ、騒音、悪臭、サリン、青酸カリ、ヒ素、クローン羊、追伝子組み換え、農薬、塩化ビニル、ダイオキシン環境ホルモン、焼却炉、森林破壊、地球温暖化、石油危機、資源枯渇、紫外線、中性洗剤、食品添加物、電磁波障害……四四個。 環境ホルモンとして疑われている物質が六六種類……食品添加物、発ガン性物質 、内分泌撹乱物質など真剣に数え上げたら一万にもなるでしょう。 あまりに多いので現実には、一つ一つ考えてはおられませんが、そうは言っても、本当に子供の健康に注意するなら、一つ一つを調べ、どういう食品や容器に入っているかを勉強しなければなりません。そうしないと万が一、子供の健康に 大きな影響があったら、自分の子供に申し訳ないからです。 どれもこれも大変な数です。もちろんこれは現境関係の心配事を中心に拾いましたが、それだけではありません。仕事に関するものでは、来年の売り上げの心配から、銀行の資金繰り、リストラ、首切り、年金、業務上のケガなどあらゆる心配が降りかかってきます。学校に行っている息子や娘は成績のこと、体のこと、友達のことと心配はつきません。 あまりにも多いのですが、常に頭の中に置いておきたい心配事を二〇〇個とします。この膨大なストレス因のうち、一日にその二〇分の一を思い出一つに一〇分の時間をとられるとすると、それだけで一日、約二時間にもなります。 この二時間は本来、わたしたちの人生にとって無意味なものですので、その分だけ自分の人生から差し引かれてしまいます。一日に人間が起きている時間は一六時間。そのうち、顔を洗ったり、ドアーを開けたりするような「何も考えられないし、何も他のことはできない」という時間も一時間ほどはあります。それにさらに二時間もとられるのですから、時間が見る見るうちに減っていくことになるようです。つまり、時間が短く感じられる第一の原因は、「心配事が増えていく」ということが一つの原因であることが判ります。 もう一つ、時間が短くなる原因は、繰り返しが増える、ということです。 この種類のもののうち、一番、単純な例は「同窓会」です。中学校のときには小学校のときの同窓会が一つだけあります。それが高等学校になると同窓会は二つ。さらに高等学校を卒業すると三つになり、そのほかにクラブ活動や人のつきあいが増えて、会合の数が急激に増えてきます。 冷静に考えれば、同窓会は一年に一回でよいのかもしれません。そのときに大いに懐かしい話に花を咲かせ、一年間はその余韻に酔えばよいのかもしれません。もちろん、学校が六三三制になっているから同窓会が三回もあるので、もし小学校が一八歳まで続いていれば同窓会は一回です。 このように、わたしたちの人生は、年月とともに、心配事の数や、繰り返しの数が増えてきますが、自分としてはあまり意味のないものに費やした時間は後になって記憶に残っていません。 だから、そのようなものに使う時間が増えると、「あっとという間に一カ月が過ぎた」ということになるのです。試しに、一カ月のカレンダーを用意して、本当に自分が選び、自分が楽しんだ時間だけを塗りつぶすと、それが案外少ないのにびっくりされると思います。 そのカレンダーの空白のとき、その時間だけが自分で過ごした時間として、後に記憶に残り、それだけが自分の人生の時間となります。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231123  170