しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

おわりに

おわりに 「惚れてよ、可愛い、可憐(いとし)いものなら、何故命がけになつて貰(もら)はない。(中略)可愛い女房の親ぢやないか。自分にも親なんだぜ、余裕があったら勿論貢ぐんだ。無ければ断る。が、人情なら三杯食ふ飯を一杯づ分けるんだ。」(泉鏡花婦系図』明治四一年) 泉鏡花の文学は、西洋の俗物主義に日本の義理人情で対抗しているとされています。そして、この見事な文章のなかに本著が凝集しているように感じられます。しかし、西洋でも俗物主義は近代科学とともに訪れたのであって、ギリシャ、ローマとは別の文明体系であったゲルマンはそうではなかったようです。 「不名誉な者として判定された者が、たとい財宝をもっていても、そんな財宝は社会的にはなんの価値も認められない、また所有主である本人自身が一人前の人間としては通用しないのであって、社会的には全く「生けるしかばね」以上の何物でもない……あらゆる名醤は誠実に由来する。」 と淡野安太郎さんはまとめています。そして、このように誠実を重んじるゲルマンの文化は我が国でも同じであったとされています。その例として借金証文をあげます。 「万一、拝借した金子をお返ししえないような節は、拙宅の前に来てお笑いくださっても構いません。」 つまり、少し前までは、誠実を失うことは生きていくことを拒否されるという規範は洋の東西に因らなかったのです。著者は科学者なので、近代科学が人間から誠実さを奪ったと考えたくないのですが、歴史はそういっているように思えます。 わたしたちは衣食足りて礼節を知るようになれるでしょうか? リサイクルに関する著者の書籍や論文を読まれた多くの方からお便りをいただきました。そのお便りの一つ一つが本著の執筆を助けていただきました。また、わたしの講演会を企画していただいた方、会場で熱心にお聞きになり、またご質問をしていただいた方、そして、江崎玲於奈学長、増子舜先生はじめ多くの先生方、友人の小澤優一さん、山本勝弘さん、北村光 一さん、明田川博さん、辻壮一郎さんにも多くのコメントをいただき、学生との議論や調査、そして最後に青春出版社の桑原渓一さんの粘り強い励ましで本著が完成しました。関係の方々に本著の終わりにあたってあつくお礼申し上げます。 二〇〇一年三月三日 武田邦彦 223 参考図書 一 ヘンリー・D・ソロー『森の生活』出水春三訳注、対訳 二南雲堂)(一九七七) 二 松尾光芳編著『老化と環境因子』学会出版センター(一九九四) 三 桑野幸徳『太陽電池もの知り博士になる本 』パワー社(一九九三 ) 四 オルテガ著、桑名一博訳『大衆の反逆』白水社(一九九一) 五 ジョン・エリス著 越智道雄訳『機関銃の社会史』平凡社(一九九三) 六 渡辺京二 『逝きし世の面影』葦書房(一九九八) 七 大場英樹 『現境問題と世界史』公害対策技術同友会(一九七九) 八 源 了円 『義理と人情』中公新書(一九六九) 九 淡野安太郎『社会倫理思想史』勁草書房(一九五九) 十 中野孝次 『老年を幸福に生きる』青春出版社(一九九九) 十一 武田邦彦『「リサイクル」してはいけない』青春出版社(二〇〇〇) 十二 上岡義雄『神になる科学者たち』日本経済新聞社(一九九九) 十三 小池五郎『食べものの健康学』大修館書店(一九八四) 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 2023112114  224