しあわせみんな 三号店

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二酸化炭素の回収・貯留

二酸化炭素の回収・貯留 やや特殊な話ですが、話題になってもう二〇年は経ちながら成功例の(たぶん今後とも)ない話をひとつ、解剖してみましょう。人間活動から出たCO2を集め、地下深くに押し込めれば、「排出しなかったことにしてよい」という不思議な話。二酸化炭素の回収・貯留を表す英語の頭文字のつながりでCCS、近ごろは利用も入れたCCUSを耳にすることが多くなりました。 本章の冒頭に書いた「木だけ見る」姿勢なら、すぐできそうな、効果の高い営みに思えますね。けれど「森」に少しだけ分け入れば、とんでもない夢物語だとわかるのです。 まず、純粋なCO2を扱う場面はほとんどなく、ほかの物質も含む混合気体から、(ふつうは薄い)CO2を抽出しなければいけない。科学の言葉でいうと「エントロピーを減らす」操作です。次に、地下空間への押し込めに先立ってそのCO2を冷やし、液化する必要があります。最後の押し込めには、強力なポンプを使うはず。 エントロピーの低下にも、CO2の冷却・液化にも、ポンプの作動にも、必ずエネルギーを消費するため、根元でCO2が発生します。むろん、貯留用の地下空間を整える工事でも、大量のエネルギーを使う。そうやって出るCO2の量をA、回収・貯留されるCO2の量をBとしたとき、意味があるのは、AがBより小さいときだけ。AとBの大きさをきちんと比べた例は知らないのですが、しがない化学屋の第一勘では「A>B」、つまりCCSは、やればやるほど国のCO2排出を増やしてしまう。だからこそ実用化の例がないのです。 二〇年近く前に私は、NEDO新エネルギー・産業技術総合開発機構)のご依頼で、「CS技術提案書」の審査をさせていただいたことがあります。「CCSに意味があるとは思いません。日本で私がいちばん不適切な人間ですよ」とまずは辞退したのですが、「それでいい。とにかく順位をつけてくれ」と来訪の課長氏がおっしゃったため、引き受けました。 予想どおり、納得できる収支決算まで書いた提案は一件もなかったのですが、別のポイントを見て順位づけだけはなんとか完了。ただしその際、「決まった予算は何があろうと消化しなければならぬ」という霞が関の哲学をしっかり学び、以後それが少しは役に立ちました。課長氏のお名前は忘却の彼方ですし、もはやご退官後かと拝察しますが、いい社会勉強をさせていただいたことに心よりお礼申し上げます。 気候変動・脱炭素」14のウソ』渡辺正著(丸善出版株式会社)