しあわせみんな 三号店

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● 森林が二酸化炭素を暖収してくれるという論理の破綻

● 森林が二酸化炭素を暖収してくれるという論理の破綻 国民がすぐ納得するのは「森林が二酸化炭素を吸収する」という話である。 植物は二酸化炭素を吸収して光合成を行い、自分の体をつくる。植物が樹木なら木材にも利用できる。だから、森林さえ増やせば自動的に二酸化炭素を吸収してくれるという論法がまかり通っている。 実は、この話は間違っていて「故意の誤報」なのだが、納得しやすい話ではある。今から2年前、大学の教養教育を議論する委員会で講演をした時のことだ。教養がテーマなので法学や文学など文科系の学者先生が多く、理科系の先生方は比較的少なかった。私がそこで「科学的に間違ったことでも世の中に認められていること」の一例として、「森林と二酸化炭素の吸収」を挙げた。 そして、「森林は二酸化炭素を吸収しないが、多くの日本人は森林が二酸化炭素を吸収すると思っている」という説明をした。そうしたら、政府の中心的な活動をしている高名な大学の教授が「武田さん、今の話は本当ですか!」と驚いておられた。 日本の指導層でも、テレビや新聞の記事の方が接する機会が多いので、「森林が二酸化炭素を吸収する」と間違って理解していることがある。 科学的に間違ったことでも圧倒的な情報のもとではみんなが納得してしまう。 林野庁のホームページの「こども森林館」というコーナーには森林の機能ということで、「森林はどのくらいの二酸化炭素を吸収しているのでしょうか?」という質問のページがあるが、その回答にはこうある。

……ひとりの人間が呼吸で出す二酸化炭素は年間約320kgであり、スギの木にして23本で吸収する。 ……自動車1台が出す排気ガスに含まれる二酸化炭素は年間約2300kgであり、スギの木が160本で吸収する。 ……1世帯の人が生活する時に出る二酸化炭素は年間約6500 kgであり、スギ460本で吸収できる。 このような具体的で簡単な話を示されると、相手は専門家だし、まさか林野庁という正式な国の組織だから間違いを言ったり嘘をついたりするはずがないと信じてしまうだろう。まして子供用だから嘘をつくはずはないと思う。 ところが、これが間違っている。 森林は、樹木が生まれて若い時には体が大きくなるので二酸化炭素を吸収して体をつくる。しかし、それは成長期のことで、樹木も成熟すればあまり大きくならないから二酸化炭素も吸収しなくなる。 そして、やがて老木になれば、段々と枯れてゆく。最後には木は枯れて倒れて微生物に分解され、空気中の酸素と結合して再び二酸化炭素になる。 従って、樹木の一生では、生まれてから成長期までは二酸化炭素を吸収して自分の体を大きくしているが、成熟すると二酸化炭素をほとんど吸収しなくなり、老齢になって死に至ると、今度は二酸化炭素を放出する。 ある一定の森林面積を対象にするなら、生まれる樹木も枯れてゆく樹木も最終的には同数で、トントンとなるから二酸化炭素を吸収しないことになる。 それでは、先程の林野庁の計算はなんだったのか。 実は「計算の前提」となる但し書きがついていて「50年生のスギの人工林には1ヘクタール当たり約170トンの炭素を貯蔵しており……」とある。この説明を読んで「ああ、これは樹木は死なないと仮定した時だな。樹木は生物なのに死なないという仮定は正しいのだろうか」などと思い付く人はほとんどいない。そこを狙っている。 筆者なら科学的な正しさを期すために「スギの木は炭素を貯蔵していますが、枯死した時にその炭素は二酸化炭素になります。材木として利用しても最後は同じ量の二酸化炭素になるので吸収はされません」と書く。正直に書いた方が気持ちは楽だ。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230828  142