しあわせみんな 三号店

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● 科学的知見に反する現代のおとぎ話

● 科学的知見に反する現代のおとぎ話 森林の二酸化炭素吸収に似た話が水素エネルギーである。 3年ぐらい前、私がある大学院の試験官をしていた時のことである。試験を受けに来た学生が「水素はクリーンで、無尽蔵なエネルギー資源だから、私は水素エネルギーの研究をしたい。内容は~」と発表をした。この研究は前提自体が間違っているので、発表が終わった後の口頭試問で私はさっそく質問をした。 「エネルギーとしての水素は無尽蔵ではないが、君の言う水素はどういう状態の水素か?」 その学生は緊張していたこともあるせいか、私の質問の意図がわからなかったのだろう。世の中では「水素はクリーンで無尽蔵なエネルギーである」と報道されているし、名だたる先生ですらそう述べていると繰り返す。いかに大学院にチャレンジしようとするような優れた学生でも誤報で頭が占有されているのである。 地球上に水素は確かに膨大にあるが「エネルギーになる水素」は地球が誕生して間もなく宇宙へ飛んでいってしまって、誕生から46億年も経った現在ではすでにない。 水には水素が含まれているが、水の中の水素はエネルギーではない。もし水の中に含まれる水素を使おうとしたら、「石油を酸素で燃やして二酸化炭素を出し、その熱を使って水の中の水素を分子として取り出す」ということをすればエネルギーになる水素が得られる。しかし、水素と同じ量の二酸化炭素が出る。 だから水素をエネルギーとして使うのと、石油をそのまま使うのとでは二酸化炭素の出る量は同じである。 ところが、お国では経済産業省が水素エネルギーの利用を促進する研究プロジェクトを国の予算を使ってずいぶんやっているし、それを信じて新聞は「水素自動車、技術にメド 燃料タンク軽量化カギ」「CO2出さず脚光」という見出しの記事を載せている。水素自動車を使えば二酸化炭素を出さずに自動車を走らせることができるという記事を毎日のように目にするのだから、学生が誤解するのもやむを得ない。 そうなると環境運動家も勘違いして、環境に良いのならば自治体が使う自動車は水素自動車にすべきであると言い始める。自動車会社も環境にやさしい会社というイメージをつくるために水素自動車を開発する。 最近ではマツダ広島県・市にリース方式で水素自動車を納車した。月々のリース料は42万円である。普通の自動車リースの相場が月々1万円~5万円であることに比べればとんでもなく高い値段だが、国も環境を守る象徴的なものだとして1億円近い水素自動車を購入したことが報じられているのだから、広島県・市ばかりを責められない。

素人目に見ても1億円もする水素自動車のどこが環境に良いのだろうかと疑問に思うし、彼らにとっては所詮税金だからということで政府や自治体が買うのかもしれないが、そうした雰囲気をつくり出す側も無責任なものである。 社会というのは「故意の誤報」であれ何であれ、間違った情報で一度方向性が決まると、どんなに常識外れのことでもそれで進んでしまう場合がある。水素自動車の話や森林が二酸化炭素を吸収するというような話、さらには北極の氷が溶けて海水面が上がるという話は、いずれも科学的知見に反する現代のおとぎ話である。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230830  147