しあわせみんな 三号店

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第4章 チリ紙交換屋は街からなぜいなくなったのか ● 紙のリサイクルに対する先入観と誤解

第4章 チリ紙交換屋は街からなぜいなくなったのか ● 紙のリサイクルに対する先入観と誤解 大学でリサイクルの講義をすることがある。 学生はペットボトルのリサイクルが無意味なとは感覚的にもわかるのか、ペットボトルのリサイクルがひどい状態であることを知っても、あまり驚かない者もいる。 ダイオキシンの毒性が弱いということには少しびっくりするが、最近ではダイオキシンについてはあまり話題になっていないので、学生によっては忘れている学生もいるほどである。 そんな現代の大学生でも一番、衝撃を受けるのは紙のリサイクルだ。紙のリサイクルが何の意味もないことを知った時、学生は一様にショックを口にする。それはどうも小学生時代の教育にあるようだ。小学校では紙をリサイクルすることが環境に良いことだと教えるようである。 何しろ小学生の時だから、学生もそれを信じて、紙のリサイクルに協力してきた。そうした事実が覆るのだからショックを受けるのは当然だろう。 4、5年前になるが、ある講演会で紙のリサイクルが実にバカらしいことだと講演した時のことだ。講演が終わって質問の時間になると、会場から手が挙がり、ある小学校の校長先生からのコメントがあった。 「先生のおっしゃる通り、私も紙のリサイクルは意味がないと思いますが、リサイクル紙を使わないと補助金が貰えないので、仕方なく私の小学校ではリサイクル紙を使っています」と述べられた。 私は喉元まで、「たとえ補助金が貰えなくても、児童に間違ったことを教えるよりは良いから新品の紙をお使いになったらいかがですか」と言おうとしたが、グッとこらえた。その校長先生の顔には苦渋の色がにじみ出ていたからである。 こうしたやり取りの最中、私は脚本家として有名な美作正己さんが、あるインタビュー記事で次のように語っておられることを思い出していた。 太平洋戦争が終わりに近づいた中学校の時だった。社会科の先生が自分たちを教室に入れて暗幕を引き、小さい声で「日本は負ける」とおっしゃった。そして「大人は殺されるかもしれないから君達が頑張れ」と言ってくれた。それを聞いて、戦うことが正しいと教えられていた中学生は(その先生に向かって)「非国民! 殺してやる!」と言った。生徒はすっかり洗脳されていて、先生の言う事実が理解できなかったのだ。戦争が終わるとその先生は「自分がこれまで生徒に嘘を教えていた」と反省し学校をお辞めになった。他の先生方は戦争中、生徒に特攻隊に行くように指導し多くの生徒が死んだ。戦争に行くことや特攻隊員になることを煽った先生たちは多くの教え子が若くして命を落としたのに、天寿をまっとうした。 一旦、国が戦争を始めれば、大人たちは戦わなければならない。戦争反対でも国が戦争すると決めた限りは戦わなければいけない立場に否応なく追い込まれるだろう。 しかし、子供はどうだろうか。戦争が永久に続くわけではないので、子供には戦争中でも正しい国際関係を教えるのが筋だろう。 リサイクルでもそうだ。色々な事情が複雑に絡んでいて、政府としてはリサイクルをやらざるを得ないかもしれない。しかし、だからといって児童を巻きこむのはどうか。 もし児童にリサイクル教育をするならリサイクルが本当に正しくなければいけない。圧力的な団体がいるからとか、特定の人が儲かるとか、失業者を救うという目的でリサイクルをしているならば、それに子供を巻きこんではいけない。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230907  170