しあわせみんな 三号店

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フィンランドの人のような生活を実現するための一番大きな障害は人口密度

フィンランドの人のような生活を実現するための一番大きな障害は人口密度 次に、生活を自然から採れる木や紙を中心として組み立て、長く使える家具や居間と調和した頑丈な家庭電化製品を使い、近いところは車を使わずに歩き、暖炉を囲むことはあってもむやみにエアコンを使わないなどの工夫もいります。 そのくらいなら、なんとか日本でもできそうな感じがします。 しかし、フィンランドの人のような生活を実現するための一番大きな障害は人口密度でしょう。 もし、日本の人口をフィンランド並みの五六〇万人まで減らすためには、日本人同士、一人が二一人を殺せば人口は五六〇万人まで減ります。そして、生き残った運の良い人がフィンランドと同じ素晴らしい礫境で生活をすることができるということになります。 もちろん、こんなことは現実的でもないし、環境に良いはずもなく、また快適な人生でもありません。多くの家族や友人を失って、自分一人が森のなかに住んだところでどうにもならないからです。どうしてこんな奇妙な結論になるのか、ここで「森の生活」の意味をもう一度考えてみましょう。まず、「森の生活」や「地方での人生」を送ることが環境を改善することにつながるのかということです。 日本とフィンランドの人口密度を考えて、東京や大阪などの大都市と、人口密度が二〇分の一程度の県と比較してみます。

まず、自動車の保有台数では、東京は四人に一台の自動車を持っているのに対して、人口密度の低い県は平均して二人に一台の自動車を保有しています。 地方では、自動車は「楽しみのためのもの」ではなく「荷物を運ぶ道具」でもなく、むしろもっと基礎的なもの、「生活を守るための必需品」なのです。 次に、人間が移動するときに電車と自動車ではどちらが現境に良いかについてのデータを示します。運輸省(現在の国土交通省)の調査ですが、例えば、一人の人が一キロメートル移動するのに、電車なら一〇〇キロカロリーを要しますが、自動車の場合はそのおよそ六倍のエネルギーが必要です。電車より自動車の方が環境に悪いことは、多くの人が知っていますが、その差は六倍にもなるのです。 つまり、東京や大阪と人口密度が低い県では、自動車の保有台数で二倍、使用エネルギーで六倍違うので、人間一人あたりに換算すると、移動のエネルギーは、地方の方が実に一二倍も消費しているという計算になります。 さらに都会と地方では地方の方が平均移動距離が長いのでさらにこの差は広がります。その人の活動輩にもよりますが、地方の方が多くのエネルギーを使うことは間違いありません。 当然の結果です。広いところに住み、便利さは都会と同じ生活をしようとしたら、それだけエネルギーがかかるという結果が得られたに過ぎません。 地方に長く住んでいた人は、そんなものかもしれないという感想をもっています。地方の町では最近、「近くの商店街」がすっかり寂れ、郊外に大きな店ができる傾向にあります。買い物をするにもそこまで車を使わなければなりません。また、伝統的に家が田畑の近くにあるので町まで距離が遠いので、しよっちゅう車に乗っているのも事実です。 その代わり、地方では「もの」の使い方が東京とかなり違います。都会では生活に使う品物を使い捨てする傾向にあり、コンビニで買ったお弁当やジュースの容器もすぐ捨てなければ生活ができません。事実、都道府県別の「ゴミの鼠」を比較しますと、大都市が二倍程度多いことも知られています。 このように単純な比較はできませんが、人口が少ないとエネルギーが多くいると言えます。例えば、国民一人あたりの所得がほぼ同じである日本とカナダを比較すると、一人あたりのエネルギー使用量は、カナダが二倍程度です。 結局、大都市のようなぎっしりと詰まった生活をするのと地方の比較では、必ずしも「地方の生活だから環境に良い」と決まったわけではないことが判ります。 「森の生活」にあこがれるもう一つの理由は、森に囲まれて自然のなかで悠々と過ごそう、ということでしょう。たしかに、お金があれば東京からヒコーキで一時間、空港から車で一時間ほど。 豊かな木々に囲まれた自然の中で週末を過ごす……それは素晴らしい生活です。 しかし、もちろんこのような生活をすべての日本人ができることではなく、特別な人たち、例えば十分な遺産を持っていたり、特別な才能があって職場まで行かなくてもお金が入ってくる人や、たっぷりと退職金をもらい老後は静かな地方で暮らすことができるという人だけに許されることです。もちろん、そういう人たちが地方や森のなかに居を構え、悠々自適な生活を楽しみ、都会で仕事をしたり子供に会いに行くのにヒコーキを使うからといって、非難することはできません。しかし、そういう生活は膨大なエネルギーを使い、環境を汚していることは知っておく必要があります。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231020  60