しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

第3章 「目に見えるもの」より「目に見えないもの」を考える 人体から環境を考える発想

第3章 「目に見えるもの」より「目に見えないもの」を考える 人体から環境を考える発想 昔は、人間が誠実でした。だから、三倍も四倍も資源を使うものに「グリーン」と貼ったり、補助金をもらってまで「環境に良い」というと何となくおかしいのが判ったのです。今では、裸の王様のように、いくら実際と違っていても、言い張ることができれば、事実と思い込むことができます。でも、そのような生活は決して、わたしたちを満足させません。わたしたちのこころは本来、誠実で、そんなものでは誤魔化せないからです。 この章からは、どんな生活が本当に環境に良く、わたしたちを満足させてくれるのかを考えていきたいと思います。まず、人間の基本はその体です。そして、「美しいこころが、たくましい体にからくも支えられることがある」と唱われるように、体はこころと連動します。いくら元気がよい人でも体の調子が悪いと消極的になったり、悲観的になるのを防ぐことはできません。反対に元気なときは上機嫌で、活動も自然に活発になります。 わたしたちが美しい環境のなかで、充実した人生を送るための第一条件である「体」を理解するために、まず宇宙人の生活を参考に話を始めます。 日本人の宇宙飛行士がつぎつぎとスペースシャトルに乗って宇宙空間に飛び出していく時代になりました。 人類最初の宇宙飛行士、ガガーリンが「地球は青かった」と宇宙から感動的なメッセージを送ってきましたが、わたしたちは宇宙に限りない夢を感じます。しかし、実際にロケットに乗って宇宙を旅するには厳しい訓練が必要とされます。それは「宇宙」という特殊な環境が人間の体に異変を起こすからです。その一つとして宇宙空間で生活をしていると血 が少なくなるということが判ってきました。 人間の体は地球の引力で常に「下」に引っ張られています。そのために、わたしたちの体はいつも「下に引っ張られるだけ、上に引き上げよう」とします。 ところが、宇宙空間では「無重力状態」、つまり、地上にいるときと違って重力が無いので体は下に引っ張られません。 スペースシャトルで宇宙にあがると、人間は頭では「宇宙に来たのだ。ここは無重力なのだ」と理解することはできますが、自分の体にそういい聞かせることはできません。そこで、体は宇宙に行っても、地上にいるときと同様に、「下に行っては困るので上に引っ張る」活動をします。 地上では何もしないと、血液が体の下の方に行ってしまいますので、常に 上に引っ張っていたのが突然、無重力状態になるものですから、血液が体の上に集まってきます。ちょうど人間が逆さに吊されたような状態になり、顔が紅潮して少しむくんだようになるのです。そうすると、宇宙空間にいるとは知らない人間の体は「血が多すぎるのだな」と錯覚して、血の量を減らしてしまうのです。 血液は栄養や酸素を運ぶ役割をもっていて人間の活動のもとですし、病原菌に対する体の抵抗力も血液の鼠に関係します。宇宙空間という厳しい場所で、栄養が体に行き渡らず、抵抗力が弱るのですから、この変化は大変なことなのです。 宇宙空間での体の変化は、血液ばかりではありません。筋肉も弱くなることが知られています。引力がなく、ほとんど力のいらない状態ですので、宇宙飛行士の体はそれにすぐ順応し筋肉が急激に落ちるのです。筋肉が減る速度は、一日に約一パーセントの割合といわれ、僅か一、二週間の宇宙での生活を送って、地上に降りたったときには介添えする人がいなければ立てなくなるほどになります。その上、一度減った筋肉は回復するのが難しいので、宇宙飛行に飛び立つ前に、 あらかじめ地上の訓練で筋肉を増やしておきます。そして、宇宙空間で筋肉を失い、地上に帰ってきたときにちょうど前の状態になるように調整しているのです。 もし、宇宙人という種族がいて、生まれたときから無重力状態で生活をしているとします。そのような宇宙人は無重力状態でも骨が弱くなるとか、頭に血が上がることはないでしょう。むしろ彼らが地上に降りてくると、骨が折れ、血が脚に回って頭は貧血状態になり、倒れるでしょう。宇宙人の撃退法は、宇宙人に地上に降りてもらうことかもしれません。 ところで、生物の生理活動はDNAが支配しています。親から子、子から孫に伝達されるDNAの情報は、種族の保存と幸福な生活を送る一番良い方法を教えてくれるのです。身の危険が起きたらどうして逃れればよいのか、環境が激変したらどのようにして防ぐのか、誰が味方で誰が敵なのか、すべてDNAが教えてくれます。 人には好き嫌いがあります。食事でも美味しいものとまずいものがあります。なぜ、あるものは美味しいと感じ、また、まずいと感じるのでしょうか? それは「自分の命を守るものは美味しく感じ、危険なものはまずい」ということを が教えてくれるからです。 人間には「栄養学」という学問があるので、健康を保つためにはどの食事が良いとか、どれを食べ過ぎるとよくないと指導してくれますが、動物の世界には栄養学者はいません。彼らは自分の味覚を頼りに危険な食糧と、必要な食糧を区別しているのです。 天気の良いときに外に出て軽い汗を流し、その後、ビールをグッと飲むと爽快です。風呂があればそれに越したことはありません。外で食べるバーベキューもまた格別な味がします。これらもまたわたしたちの体のなかに組み込まれたDNAの「ご指導」のたまものです。 DNAは親から子供に伝達されますが、一つの世代の経験はほんの僅かしかDNAの情報には入りません。長い長い人類の歴史から学び取った教訓を、たった一世代の経験で修正するのはあまり適当ではないからです。 DNAが少しでも環境にあわせて書き換えられるのには約一万年ほどかかると言われています。 ということは、現在のわたしたちのDNAはちょうど、メソポタミアやエジプトの時代の環境のなかで作られたと言えるのです。

当時の日本はどんな具合だったのでしょうか? まずは感覚的につかんでもらうために、絵を示しました。森が豊かに茂っています。高い木の間には灌木と背の高い草が生い茂り、シカが棲み、そのような自然と一緒に生活していた日本人、そのDNAとわたしたちのDNAは同じなのです。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231103  108