免疫は単に異物に反応するものではない 人間の免疫は非常に複雑で難しいものですが、おおむね次のように説明されています。 「人間の身体は異物が入るとその異物に応じて抗体ができて、その抗体が自分の身体を守る。このことを免疫という」 NHKなどもこの定義に応じた報道をしていますが、実はこれはまったくの間違いです。 第 一に人間の体内には、母親と父親からもらった細胞が60兆個あり、微生物などその他の人間由来ではないものが20兆個ぐらいあると言われています。 代表的なものでは「腸内細菌」が挙げられます。これは小腸と大腸のなかに多く存在していて、毎日の糞便の際にはかなりの部分が腸から剥がれて排出されるという、極めて数が多く、また体内での体謝回転が早い細茜です。 そして私たちの体内には「常在ウイルス」というものもいます。たとえばヘルペスウイルスなどがそうですが、これはふだんから神経に巣くっていて、体調が悪くなると何らかの反応を起こしたりします。 さらには、皮膚などいろいろなところに巣くっている水虫と言われるような「微生物」もいます。
これは人間だけではなく、現在の地球上の生物はほとんどの場合が複合体となっているのです。 複合体の極端な例としては、シロアリが挙げられます。「シロアリは材木などを食べる」と言われていますが、シロアリ 自体には材木を消化する能力はありません。消化はシロアリの身体のなかにいる微生物が行っていて、シロアリはただ木材を食べるだけです。 シロアリがその口で材木を切り裂いて食べると、シロアリの身体のなかにいる微生物がこれを分解する。そうして分解されたもののなかに ある栄養素をシロアリは吸収する。シロアリは微生物とともに生きている複合体なのです。 そして、我々人間も複合体です。たとえば、腸内細菌がいなければ 一日たりとも生きていけないというように、人間は細菌と共存しているのです。 ウイルスにしても、腸内細菌のように効果がはっきりとした典型的な例は今のところ見つかっていないものの、それでも 一般的には「ウイルスがいなければ人間も生きていけない」と言われています。 こう考えると、「人間の身体に異物が入ると免疫機能が発動する」というのはあまりにも単純化された言説だとわかるでしょう。人間の身体のなかは異物だらけなのですから。 しかし新型コロナウイルスに関しては、人間があたかも純粋なものであると誤解させるような報道が続いていて、これは非常に 問題です。 『「新型コロナ」「EV脱炭素」「SDGs」の大ウソ』武田邦彦著 ビジネス社刊 20240326 P95