しあわせみんな 三号店

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「オオカミ少年」「オオカミ少女」の意味

オオカミ少年」「オオカミ少女」の意味 家族の破壊で一番大きいのが「両親の不慮の死亡」です。人間と違い、動物は天命を全うする個体はほとんどありません。動物の死亡原因調査によりますと、病気で死ぬ動物より他の動物に食べられたり、戦いや事故で死んだりする個体の方が多いのです。 そこで、オオカミは事故で親を亡くした「他のオオカミの子供」を引き取って育てる習性を持っています。子供は家族の中で育つのですから、家族が崩壊したら子供は死ぬしかありません。 それでは家族が助け合うという長所がそのまま欠点になるので、それを補っているというわけです。このような習性は野生の動物のなかではイヌ科だけに見られる生態です。時々、森のなかに迷い込んだ人間の子供が、オオカミに育てられ「オオカミ少年」「オオカミ少女」として発見されることがありますが、オオカミの習性なのです 。 それを、「オオカミが人間の孤児を育てる」というので、オオカミのこころがやさしいとか、オオカミが社会福祉体制を持っていると勘違いしてはいけません。オオカミは人間の子供とオオカミの子供の区別ができないだけです。 ところで、オオカミの子供は夏になると親と一緒に歩けるようになり、一年後にはほぽ体重は成獣と同じになります。そして、おおよそ二年で性的にも成熟して親の群れを離れるのです。寿命はだいたい一五年。 このように一見して幸福なオオカミの家族も厳しい自然に晒されているのは他の動物と同じです。一組の夫婦が毎年、子供を五頭ずつ産み、一〇年間産み続けると、一組の夫婦で五〇頭ほどの子供ができることになります。生まれたすべての子供が成長して成人になり、伴侶を見つけて次の世代の子供を産むと、オオカミはすごい勢いで増えることになりますが、もちろん、現実はそうではありません。乳児で死亡したり、若いときに事故で死んだり、病気もあります。結局、大昔からオオカミの数はあまり増えも減りもしないということは、生まれた子供のほとんどは若いうちに死に、幸福な家庭を持ち、その一生を全うするオオカミはほんの僅かしかいないことが判るのです。動物の社会は、常に死と隣り合わせですから、それも自然の摂理というものでしょう。 このように、オオカミの社会と一生は、人間よりも立派なように思えます。夫婦の関係はまことに羨ましく、お互いにするべきことをして、しかも、いたわりのこころを持ち、ケンカもしなければ、一生、不倫もしない。他の家族の両親が死ぬとその子供の面倒まで見ますが、他人の子供を育てるときも夫婦の間で意見が食い違ったり、争ったりはしません。黙々とオオカミの伝統に従って他人の子供を育てる。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 2023112110  218