しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

●「あなたの子供には奇形児が生まれる」という脅迫

●「あなたの子供には奇形児が生まれる」という脅迫 三番目は1976年に起こったイタリアのセベソの事件である。その年、イタリアのセベソという町で化学工場が事故を起こした。その工場は塩素系の農薬を製造していたため、それが飛散するとともに、その中に含まれていたダイオキシンが町中に降り注いだ。 その量はきわめて多く、たった人口1万7000人の都市なのに、1年間に日本中で発生するダイオキシンと同じほどの量、つまり5キログラムから20キログラムだったと言われる。 ダイオキシンの致死量が報道された通りなら、数億人の人が死亡する量だと推測されていたから1万7000人のセベソの住民はすべて全滅するのではないかと危惧された。 しかし、現実には明らかな慢性疾患も、もちろん死亡者も出なかった。当時はダイオキシンというのは、猛毒の可能性があると疑われていたので、国際的な医師団が入って毎年、追跡健康診断が行われた。 その結果は、ヨーロッパのインターネットページに掲載されていた。驚いたことに日本の新聞には大きな被害があったと報道されているにもかかわらず、インターネットページに掲載されている健康診断の結果では、犠牲者や病人は1人も出ていない。女性の皮下脂肪にダイオキシンが少し蓄積されているという報告があったが、その女性から生まれる子どもには何も問題はなかった。 しかし、哀れだったのは、周囲から「あなたが産む子どもには奇形児が生まれる」と脅かされた女性とそのお腹の子供だった。奇形児を産むのを恐れて堕ろした妊婦が多かったからである。公式に認められている女性だけで40人もいる。 しかし、それは氷山の一角と言われている。胎児も人間だから「偽装されたダイオキシン報道による大量殺人」と言っても良い。 ダイオキシンの毒性は弱いので健康な子どもが生まれたと思われるのに、周囲の批判から子供を産めなくなり妊婦を中絶に追い込んだこの事件は、ヨーロッパ中世の魔女狩りを想起させる。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230812  97