しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

本当の省エネは 、今のものをできるだけ長く使うこと

本当の省エネは 、今のものをできるだけ長く使うこと この節では「省エネ」とは「買わないこと」であって、買ったものを省エネで取り返すことができないということを示しましたが、このことも環境との関係ではかなり高度な内容を持っています。この際、「省エネ」が「省エネ」にならないという矛盾をより正確に理解するために、「エネルギーというものの実体」について少し触れたいと思います。 日本のエネルギーは、石油、石炭、天然ガス原子力、そして水力の五つですが、原子力を除けば化石燃料と言われる石油、石炭、天然ガスでまかなっています。石油ショックの時に中東からの石油がとだえそうになって、日本人はおおいにあわてました。そして石油のような化石燃料からなんとか離れようと頑張りましたが、結果的にはまだ外国から輸入する化石燃料に依存しているのが現状です。 エネルギーはいろいろな特徴をもっています。その一つは、「エネルギーは全部は使えない」ということです。石油を燃やしても、残念ながら、その熱は全部は使えないのです。 どのくらい有効に使え、どのくらい損がでるかということについて日本のエネルギー学の第一人者の平田賢先生が整理されています。日本全体では約三割は役立ちますが、残りの七割は捨てています。 もったいないことですが、エネルギーを使うと、どうしても損失が七割も出るという例を具体的に考えてみます。例えば、石油を燃やして電気を取りだす、いわゆる「火力発電」では、石油を燃やして水を蒸発させ、その蒸気の圧力でタービンを回して電気を起こすのですが、石油から得られた熱の四割程度が電気になり、残りは熱となって外に逃げてしまいます。外に逃げた熱は空気や海水で冷やすので「温排水」が大量にでることになり、これが発電所の付近に環境問題をおこします。 また、電気は発電所で起こせばそれで終わりというわけにはいきません。そのあと、送電し、変電し、そして工場や家庭に届けるまで様々な損失があります。もちろん、電気だけが空中を飛んでくるのでもありません。電気を通す電線も必要ですし、変電には変電設備は欠かせません。そのような設備を作るときにもエネルギーが必要とされます。 具体的な計算をしてみます。 日本では電気の値段は一キロワット時あたり二五円程度。一方、一リットルの石油は三〇円。 そして、一リットルの石油のエネルギーは電気では約一五キロワット時に相当します。 つまり、石油から電気を作るときに、直接的に電気になる石油は、全体のわずか一〇パーセントに過ぎないことが判ります。太陽電池の苦しさはここにあるのです。つまり、太陽の光がいくら無料といっても、石油でも直接電気を起こす石油は電気代の一〇分の一しか占めていないのですから、太陽電池と石油火力のどちらが環境に良いかどうかは、「原料」にあるわけではなく、「施設や運転」に 左右されるのです。 それでも発電はエネルギー効率が高い方です。例えばガソリンで動く自動車の移動のエネルギー分析ではかなり低い値が報告されています。 自動車にガソリンを積み込みます。そのガソリンが持つエネルギーを基準にしてそれを一〇〇とします。まず移動に直接的には関係ない排気ガスに逃げるエネルギーが三五パーセントほど、エンジンを冷却するためのラジエータで二〇パーセント、冷却水で損失するエネルギーが同じく二〇パーセントと、ここまでで約七五パーセントが損耗します。もちろん、排気ガスも冷却水も移動のために必要なものです。 さらに、軸受けやら、横揺れ抵抗、空気抵抗などがあり、結局、ガソリンタンクにいれたガソリンが持っているエネルギーのうち、実に、僅か二パーセントしか人間の移動には使われていないのです。 このようにエネルギーは少しずつ消耗し、最後にわたしたちの手もとに届くのですが、そのときにはかなり損失します。

「エネルギーはせいぜい、三割くらいしか使えない。時には数パーセント使えればよい」ということを頭に入れると、「なぜ、省エネ製品は増エネになるか」ということを別の角度から理解することができます。 しかし、考えてみると、変な世の中になったものです。 『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231027    83