しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

●節電すると石油の消費量が増える?

●節電すると石油の消費量が増える? もし、ある人が「地球温暖化を防ぐ活動に寄与しよう」と決意して、自動車にガソリンを入れず、電気を点けない生活をしたとしよう。会社まで1時間かかるけれど歩き、家では暗くても寒くても電気は使わないことにした。ガソリン代はいらなくなるし電気代はゼロ、石油を使っていないのだから自分は地球温暖化を防ぐ生活をしていると自負している。 しかし、残念ながら彼の目的は達せられない。 彼は1ヵ月に40万円の給料を貰っていた。ガソリンを買わず電気代ゼロだから、その月から2万円も支出が減った。その2万円をどうするか。彼はお札を前に考えた。 もし、このお金を使ってゲームセンターに行ってゲームをすれば電気を使うことになる。家でテレビゲームをしても外でやったのと同じように電気を使う。 この際、少し贅沢して欲しかったセーターを買おうかとも思ったが、セーターも「製品」だから自分が石油を使うか、企業が使うかの違いであり、これではせっかく会社まで歩き、電気を使わなかったことに何の意味があるのかわからない。 一杯飲みに行っても同じだし、何をしても自分が石油を使わないだけで、他人が使う。こんなことになるのなら、何であんなに我慢したのだということになってしまう。 彼は結局、余った2万円を銀行に預けた。何に使ってもこの 1ヵ月の自分の労苦が報われないと思ったからである。銀行に預ければ消費などに使わないのだから、これで目的が達せられる。しかも貯蓄も増えるのだからこんなに良いことはない。彼は満足して銀行を出た。 しかし、彼が銀行に預けた2万円は一瞬だけ銀行の金庫にあったが、すぐ貸し出されて企業の社長が持って行った。 銀行も預金を金庫に入れておいては何にもならない。できるだけ早く借り手を見つけなければならない。かくして、ある企業の社長さんの手に渡ったそのお金はその日のうちに社長さんが使った。社長さんにしてみれば銀行から借りたお金はすぐ商売に使わなければ利子を返すことができない。だから使うのは当然である。 しかし、彼はそれを知らない。銀行に預けてから家に帰り、翌日も歩いて会社に行き、家では電気を一切使わなかった。しかし、彼が節約した石油は彼に代わって社長が使っている。そんな生活を毎月続けていたので、1年経ったら彼の通帳には24万円が貯まった。 素晴らしい! 地球温暖化の防止には貢献したし、おまけに貯金もできた。そこで彼は1年間の自分の苦労に報いるために銀行から24万円を引き出して、休暇を取りヨーロッパ旅行に行った。しかし、彼が乗った航空機は燃料が必要だった。 電気をこまめに消して節約すると、電気の消費量が減るばかりではなく、お金も節約できる。それを預金する。預金すると社長が借りて使う。預金した人もそのうちにはお金を引き出して使う。 自分で使えば一度しか使われないので、その分しか石油を消費しないが、銀行に預けると2回使われる。だから石油の消費量も2倍になる。 これは、節電すると石油の消費量が増えるというトリックの一例である。 こんなことは政府もマスコミもよく知っている。しかし、こうしたことは国民に言わない方がいい。国民には「電気をこまめに消すと地球温暖化が防止できますよ」と言っておこう、そうすると国民はお金が余って銀行や郵便局に預けるだろう、そうするとそのお金を政府や企業が使うことができる。だから本当のことは決して言わない。 あれやこれやで、現在、国民が使わないお金は1400兆円にものぼるという。 結局、突き詰めて言うと、地球温暖化に個人で協力しようとすると「給料を下げてもらう」しかない。 つまり、国全体で「活動を減らす」しかない。国民が活発に活動し、生産技術を開発し、企業が生産効率を上げると石油の消費量は増えていく。中国の石油消費量の伸びや彼らの爆食ぶりを見ればわかるだろう。 だから、GDPの成長率をマイナスにし、国民が貧乏になるしか方法がないのである。考えるのはイヤだが、理屈は簡単である。 しかし、国民はそんなことには納得しない。そこで次の「故意の誤報」を用意する。 『環境問題はなぜウソがまかり通るのか武田邦彦 洋泉社刊 2007年 20230827  138