しあわせみんな 三号店

日本人は太古の昔から「しあわせみんな」という素晴らしい知恵をもって生きてきました

機械に盗まれない食事

機械に盗まれない食事 次は食事の時間です。

科学が何でも実現してくれると信じていた一九世紀の終わり頃、「将来の家庭の朝食」という有名な漫画が描かれました。中年の夫婦が機械ののった食卓の前で口を開けています。洋服や調度品から見るとそれほど遠い未来を想像したものではないようにも思えますが、口さえ開けておけば機械が何でも口に運んでくれるという朝食を想像しています。たしかにこれが「能率的」と考えることもできますが、食事という時間を機械に盗まれているのです。 一見、口を開けていれば食事が運ばれてくるのですから、これほど良い食事はないと思いがちです。しかし、これでは「食事のために食事をする」ということになります。旅の時間でトルストイが警告しているように、旅とは「A地点からB地点に移動する」ことではなく、旅、そのものの時間を楽しむことなのです。 それでは「機械に盗まれない食事」とはどういうものでしょうか? かなり前にある本で見た絵を、著者がったない記憶で写したものです。食事をする人がナイフとフォークを持ってのんびりと食事を楽しんでいます。脇でコックさんがバイオリンを弾いています。 ただ、この絵には不思議と「自分の時間」の意味を感じさせるものがあるように思います。特に、前の機械に朝食を食 べさせてもらっている夫婦の絵と比べると、その楽しさは格段に違います。

『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊) 20231127 180